世界トップレベルのサッカー指導者になる2つの選択肢とは?

【松村利子】第3回:スペインの女子サッカーはまだまだ強くなる

PSTアカデミー4期生松村さんのインタビュー企画。

今回は、スペインにやってきて実際に目で見て感じる現地の女子サッカーの様子や、自らも選手としてリーグを戦った経験から得たものを語っていただきました。

松村さんは、指導者としてだけでなく選手としてもスペインサッカーを肌で感じピッチレベルで何か起こっていることを経験として得ている稀な存在です。

また、近年著しく進化し結果を残しているスペインの女子サッカーについても語ってくれています。

第1回:戦術をもっと伸ばせた高校時代

第2回:海外の「実体験」を語れる教員になりたかった

より強くなっているスペイン女子サッカー

日本ではあまりスペインの女子サッカーは取り上げられませんが、実際にスペインの女子サッカーのレベルはどう感じますか?

松村:思っていたよりも高いと感じました。実際に見てみると選手達のフィジカルも高いですし、びっくりしました。また、スペインの女子サッカーも年々発展していると感じています。やはり指導者も育ってきていると思うので、いずれは日本の女子サッカーに対抗できると思っています。

スペインの女子サッカーのトップレベルの試合は見たりしますか?

松村:あまり見に行けてはいませんが、自分は選手としてもやっているので、今は実際に体感しています。

では、具体的に日本とスペインの女子サッカーの違いを教えてください

松村:細かい戦術が入るのはもちろんですが、指導者が選手達に何かを伝えると、それに対する適応力も高いですし、わからないことがあれば聞き返してきます。やはり、サッカーを知っているという印象が強いです。しかし男子と比べるとそこまで深くサッカーを教えられていないというか…いい監督は男子サッカーにどうしても流れていると思います。

スペインの女子サッカーの小学生などは、どういうモチベーションでプレーしているのでしょう。例えば将来はバルサでプレーしたいという子はいますか?

松村:上のレベルに行ける子は、そのモチベーションでやっていると思います。

では実際に今、松村さんが関わっている子供達の様子を教えてください

松村:私はインファンティル(13歳、14歳)というカテゴリーに関わっています。インファンティルAで1人の選手がエスパニョールに移籍をしました。しかしインファンティルBの選手達は試合に勝ちたいという気持ちはありますが、他の選手達に比べるとモチベーションが低いという印象です。逆に日本で指導していた選手達はレベルが高かったこともあり、モチベーションが高かったです。

では、選手達のサッカーに対する姿勢という面で比べるとどうですか?

松村:戦う姿勢というのは非常に高いですし、一生懸命取り組んでいます。たとえスペインの女子サッカーでも選手間での高い競争意識を感じることができます。

女子でもバルサとエスパニョールの同年代の試合も見に行っていますか?そのような試合から学ぶこともたくさんありそうですね。戦術眼やサッカー感なども養われていきますか?

松村:そうですね。もちろん監督がしっかり指導していますが、戦術面ではスペインの女子サッカーの方が高いと思います。サッカーの専門用語があるのはもちろん、監督によっては「こういう時はこうしなさい」という細かい指導が入ります。それに選手達も反応して質問を返してくることがあります。それは日本と違う面かなと感じます。

話を聞いていると、現場で実際に起こっている現象は男子と同じ感じがしますね。

松村:その通りだと思います。スペインの女子サッカーでは指導者の質が下がるかもしれませんが、やろうとしているサッカーは変わらないと思います。

レベルが低くても、小さいカテゴリーでもサッカーは成立したり、団子サッカーにはならないのですか?

松村:成立しますね。

そうですか…これからスペインの女子サッカーはどんどん強くなりますね。

松村:さらに強くなると思います。たとえ監督の質が低くても伸び代があるので、女子のサッカー人口も増えると思いますし、国や地域が女子サッカーに力を入れ始めると、どんどん成長すると思います。総合的に見ても、伸びるしかないですね(笑)。ですから、伸び代という面で見ると、日本はこれから厳しいのではないかと思います。

日本は指導者の育成が急務

では日本の女子サッカーには何が足りないと思いますか?

松村:私が思うのは、本気で指導者の育成に取り組まないといけないと思います。それは男子にも共通して言えることではないでしょうか。

もちろん、日本の女子サッカーの人口は増えてきていますが、一時に比べると衰退していますか?

松村:そうですね。指導者の方は一生懸命取り組まれているとは思いますが、方向性がスペインと違うと思います。日本はまた違うことに取り組まないといけないですね。

では、日本の女子サッカーが優れている面は?

松村:テクニック面はかなり優れていると思います。それはレベルに関係なく、一般的に見ても優れていますね。例えば、私の所属しているチームでは、逆足で絶対シュートしない選手とかもいます。チーム練習が多いせいか、そういった選手もいます。

逆に日本の女子サッカーについて聞かれたことはありますか?なんであんなに強いのとか…。

松村:聞かれますね。「なんで日本は強いのにスペインに来たの?」と質問されます。その時は、男子のレベルはスペインの方が高いのはもちろんなので、女子だけに縛られてはいないと答えます。男子サッカーから学べるものも沢山あります。

スペインの人から見て、日本の女子サッカーの印象はどうですか?1度ワールドカップを優勝しているから評価も高いですよね?

 

松村:ワールドカップを優勝したという認識はありますが、あまりスペインの人たちは日本のことについて詳しくないですね。どうしても、中国や韓国と一緒にされてしまいます(笑)

それは確かに男子にも当てはまるね(笑)では、女子のスペイン代表についてはどうですか?ヨーロッパの他の強豪国に対抗するためのことをしていますか?

松村:していると思います。何年後かには女子サッカーに力を入れ始めると思います。その話がすでに動き出しているという噂を聞いたことがあります。

女子にもヨーロッパチャンピオンズリーグがありますが、かなりポテンシャルがあると聞きました。例えばバルサの女子チームもこの大会にかなり力を入れていますが、その成果はこれから出てくるのですか?

松村:出てくると思います。バルサの女子チームの選手達は、プレーヤーとしてだけで生活を賄っていて、プロチーム化しています。他にはアトレティコの女子チームも強豪です。

となると、上の年代が成果を出すと、下の年代も夢を持てるようになってきますね。そうするとモチベーションが上がりますね。

松村:そうですね。その高いレベルでプレーしたいという気持ちが大事ですし、カタルーニャという地域ではバルサとエスパニョールが特別なクラブですよね。私が所属しているクラブからも何人かの選手がエスパニョールに移籍をしますし、その時は指導者もリスペクトを持って送り出します。

女子も男子も選手に対するリスペクトは変わりませんね。また女子と男子の違いに話が変わりますが、例えば、日本人がスペインでプレーするときに、男子だと試合のインテンシティーや戦術理解度が最初の壁になりますが、女子の場合はそれを日本人特有のテクニックでカバーできることはありますか?

松村:そうですね。スペインと日本の違いを感じることがあるので、その環境にも適応しなければなりません。例えば、スペインではポジショニングについてうるさく指導することがあります。日本では人ができていないことを他の人がカバーしようという発想があります。日本での発想をスペインで行うと1つ崩れた場面から後にしわ寄せがいく、結局チーム全体が壊れる方がダメという発想になります。そういう違いはあります。

スペインのチームプレーの概念

スペインに来て自分の中でサッカー観は変わりましたか

 

松村:もちろんです。サッカーのプレーの中で、他人をカバーするという気持ちを持つよりも、自分の責任も強く持たなければいけないという考えを学びました。

チームプレーの概念が変わってきますよね。日本だと味方の出来ていないところを助けることがチームプレーとして考えられていますが、スペインでは、その個人の領域で自分の責任を果たしていることが前提でチームプレーが成り立っているのかな…できなかったらその選手のせいになりますよね

松村:人ができなかったことをカバーするのではなくて、そのできなかったこと自体が悪いというふうに捉えられていると思います。もちろんカバーをすることも大事ですが、それによって自分のところで崩れるのを嫌う傾向にあると考えています。そのサッカー観に気づくまでに少し時間がかかりました。ただ女子は男子に比べて戦術や集団プレーをあまり学ばないので、もっと導入したらいいのにと思います。男子だとその要求がもっと高くなるので、日本にはない概念がたくさんあり、日本人は苦労すると思います。特に言葉の壁があり、サッカー用語のなども複雑なので、適応するのに相当苦労すると思います。

でもスペインに来てそれを学ぶことは大事なことですね

松村:そうですね。私はプレーヤーにもなりたかったので、選手として活動をしていました。選手をやることによって学んだことが多かったです。実際にプレーすることで多くにことに気づきました。日本とスペインの考え方の違いですね。

プレーをしていて何か特別な場面、印象に残っていることはありますか?

松村:私はピボーテ(ボランチ)でプレーしていました。その時にもう1人のピボーテの選手があまりいいプレーをしていなかったので、カバーをしなければいけない場面がたくさんありました。そして実際にその選手が守備をしなかったために、自分かカバーに入ると私が監督に怒られるというエピソードがありました。それからは先ほどのスペインの考え方でプレーをし、自分の与えられた役割を全うすることだけを考えて試合に臨みました。すると味方や監督からも評価されるようになりました。

それからチーム状況に変化は出るものですか?チームとして機能しているのは感じました?

松村:もちろんです。私のポジションには後ろにディフェンスがいるので、自分が下手にカバーして真ん中が空くよりも、そのカバーはディフェンスに任せて真ん中を守ることを優先しています。

組織としての機能の仕方が個人ベースありきのような感じがしますね。日本では組織と個人のバランスがうまくリンクしていないように見えるけど、その話を聞いていると組織の中で個人が育っていますね。

松村:自分がチームの中で果たすべきことを果たす。それがひいてはチームとして機能するためにうまくリンクしているのかなと感じます。日本では11人の中の1人として、自分の果たすべき責任が明確ではなかったような気がします。とても感覚的にプレーしていました。しかし、スペインではそれぞれのタスクが整理されていたのでとてもプレーしやすいです。

そのタスクが出来たら試合に出れますし、出来なかったら試合に出れない、そんな世界でプレーしていますよね、このスペインでは。そういう面も男子と女子も変わりませんね

次回へ続く

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