世界トップレベルのサッカー指導者になる2つの選択肢とは?

【吉住貴士】第1回:ボール扱いが下手なのにサッカーがうまいスペイン人

スペインから日本へ帰国し活躍している指導者に聞くインタビュー企画

スペインへ来て何を学び、何を日本へ持ち帰るのか?

海外でサッカーを学び、キャリアアップしていく指導者を追っていきます。

第一回は、2013年にバルセロナへやってきてモリンズレイで活躍した吉住貴士さんにお話を伺います。

吉住さんは長崎県出身で国見高校時代には小嶺忠敏監督の元で選手として活躍し全国大会優勝も経験しました。その後、鹿屋体育大学へ進学し、卒業後は地元長崎へ戻り再び小氏の元で教員とコーチとしてサッカーに関わっていました。

そして高校時代から興味があった海外へと2013年に飛び出します。スペインでは選手として、そして指導者としては優勝をするなど様々な経験を積んだ吉住さん。今シーズンはPSTアカデミーの授業で講師も勤めてもらい、日本人のサッカー指導者がスペインでどのように成長していくのかを見守る立場も経験しました。

そんな吉住さんのスペインでの経験と未来への展望を3回に分けてお伝えしていきます。

ボール扱いが下手なのにサッカーがうまいスペイン人

本日はよろしくお願いします。では早速、いつスペインに来て、日本ではどのような感じで過ごしていたのかを教えてください

スペインに来たのは4年前です。それまで日本の大学を卒業した後、高校で教師として働きながら高校サッカーで4年間関わっていたんですけど、大学卒業した時に教員になるという夢があってたまたま縁があってその夢を叶えることができました。

高校のサッカーの指導をしていたのですが、大学卒業時に海外のサッカーに興味があって最初はドイツに、特に理由はないのですが、「サッカーだったらドイツかな」という単純な理由でドイツに行きたいと思っていました。高校サッカーが忙しい中で、スペインのバルセロナで選手として活動していた高校の先輩がいたんですが、その方がと知り合うことができてその繋がりがバルセロナに来るきっかけです。

こちらへ来て始めは何をしていましたか

バルセロナに来たのが2月でした。そこからシーズンの終わりまで少ししか時間がなかったので、知り合いの人の紹介で練習を見に行ったりしていました。チームに入らずにずっと語学学校で語学を学び、その後練習見学という生活を夏までしていました。

最初の夏休みは何を?

夏休みは一度日本に帰りました。その日本滞在時に、バルセロナでずっとお世話になっていた人から連絡があって、日本人を探しているチームがあると連絡を受けました。それに対しては二つ返事でOKという返事を出してそのチームに関わらせてもらうことになりました。最初は選手を探しているということで、本当は指導者で来たんですけれども5年のブランクを経て現役復帰をしました。

相手クラブの代表にも私が指導者を目指していることも伝えさせてもらって指導者をやらせてもらえるならというお願いをして入団させていただきました。そのクラブは私が日本に帰るまでの3年半ずっと在籍させてもらえたクラブなので、その選択肢がなければバルセロナ生活も違うものだったと思います。

選手としてスペインサッカーの入り口に立ったのですが最初は抵抗はなかったですか

元々サッカーをするのは好きでしたし、特に自分の中ではスペイン語をまず覚えなきゃいけないということで、スペイン人の中にどんな形であれ入っていかないといけないと感じていました。指導よりも前に生活するためにもスペイン語を学ばないといけないという意味でどのような形であれ入ってしまおうと思っていました。選手として入りましたが、そこで指導者ができればいいかなという考えでそのクラブに入りました。

プレイヤーとして入って日本とスペインのサッカーのプレイの仕方の違いなども感じながらやっていたのでしょうか

自分が所属していたクラブがあまりレベルが高くはなく、日本で言うと県の2部、3部相当リーグに所属するレベルのチームだったので最初に入った時に全然うまくなかったんですね。みんな下手くそだと思っていたのですが、試合をやってみると全然うまくないのにボールが全然取れなくて、ボールを回される意味が分かりませんでした。コントロール、パス、ロングパスも見た目はみんなぎこちないんですが、その理由は全然わからなかったです。 自分よりも下手くそな人たちがどうしてうまくプレイができるのかが全くわかりませんでした。

「初めは」ということは今ではその理由が分かるようになったということでしょうか

そうですね。どちらかと言うと指導を始めてからだと思います。指導を始めて、いろんな人の話を聞いたりだとか、先輩方の話を聞いてからちょっとずつ分かるようになった感じがします。

では技術の間違いなく日本人の方があるけれどもスペイン人の方がサッカーはうまいと

そうですね。ボール扱いは日本人の方が上手です

その違いは初めは感覚に捉えていたということですよね?

そうですね。

その時に感覚的に感じていたものを今改めて言葉で表現するとしたらどのようなものでしょうか

当時思っていたのは、ボールを蹴る強さは強いなということです。 ボールを蹴る時に「強いキックをしておけばいいのではないか」という風に考えていました。自分もパスを受ける時にすごい強いボール、それこそ浮いたパスとかも来るんですが、日本でサッカーをやっていた時はそれだとパスを出した方が怒られるんです。

パスの質が悪いというか、パスを出した方が怒られる方が強いというイメージがあったのですが、こちらに来て違ったのはそれは受ける方が処理しなければならないということです。相手に届いていれば全部成功という感じでした。それはボールの状態が良くなくてもです。

おそらくもっと上のレベルのバルサとかレアルになればボールの質が良いのでしょうが、レベルの低いところではパスを通してしまえば関係ないという感じがしました。もちろんパスがずれたり弱かったりして引っかかってしまった場合には出し手の問題ですが、通ってしまえばあとは受け手に責任があると考えられます

それに慣れるのに苦労はしましたか。コントロールがうまくなったんじゃないですか?

変なボールが来るのにそれを止めなきゃいけないということは上手くなったんじゃないですかね?

どうですかね(笑)それは日本でプレーをしたら感じると思います。

では指導者の方にテーマを変えましょう。スペインに来て指導者として活動し始めたきっかけを教えてください

先ほども話したようにクラブの代表の人と話が決まっていたので、私は選手としてテストを受けて合格が決まった時に指導者として入るチームも準備してもらっていました。カテゴリーはU-10のアシスタントコーチでした。初めてなのでわがままを言う権利もなく喜んで「ありがとうございます」という感じで入れさせてもらいました。最初はボール拾いだったりとかタイムキーパーです。言葉も話せませんでしたからね。

はじめはピッチの中でどんなことをしていたのでしょうか

質問ばっかりしていました。片言のスペイン語で監督に対していろんな質問をしていました。選手に対しては全然コミュニケーションは取れませんでしたが、監督に対して「この練習はどういう意図があったのか」とかを毎日のように質問していました。でも全部を理解していた訳ではないですよ。

いつかは監督をやろうという目標を持ってこっちにきたわけですよね。そこに行き着くためにアシスタントコーチをしながらどんなことを心がけて毎日を過ごしていましたか

こちらに来るまで、監督や第二監督という存在は知りませんでした。

確かに日本ではその概念ありませんね

監督、コーチというのはあるのですが、こちらのように一つのチームに二人付いてという方法が日本では全くありませんでしたので、そこにいるだけでそれがすごく新鮮でした。ですから第一監督をやりたいというよりも、この環境の中で毎日毎日を過ごすことがいっぱいという感じでしたね。監督をやりたい、と考え始めたのはシーズン終わってからです。最初のシーズンはそれこそアシスタントコーチで乗り切った感じです。

その時のチームはどのようなチームでしたか

幸いクラブの中でも、カテゴリーの中でいいチームで優勝争いをできるチームでした。監督も「優勝するぞ」とずっと言っていました。毎試合が優勝がかかっていた試合だったので、すごい楽しかったです。何試合か負けたのですが、選手はその時は悔しくて泣きますし、勝ったらすごく喜んでいました。すごい新鮮だったのは、あの年代で2位3位のライバルチームの結果を気にしながら話をしていたことなんです。それがすごい新鮮でした。

そうですね。なかなか日本にはありません

リーグ戦の中で「あいつが何点決めてる」とか「中位のチームが上位を倒した」とか言うのを見て喜んでいましたし、そういうのはすごいなと思っていました。

では始めはリーグ戦文化になれるという体験をしていたのですね

はい、始めは全くゼロでしたからね。

では、2年目はどうでしょうか。2014-15です。選手としても続けながら指導者として同じクラブにいたんですね。モリンズデレイで同じ監督と続けたんですか?

その監督が「お前は絶対居てくれ」と言ってくれたので続けました。

すごいですね。信頼関係ができていたということでしょうか

どうなんですかね。同じチームメイトだったんです。彼も同じチームで選手をやっていてチームメイト同士だったのもあるんですけど。

それは選手としても信頼を勝ち得ていたから、指導者としても「あ、こいつサッカーわかってるな」と認めてもらってたということですか

選手として、スタメンで出してもらっていたので、 そういうのもあるかもしれないですね。

私もこちらに来たばかりの時は、中学生の中に混ざって練習をしていいプレーをした時にはすぐに認めてもらったという感触を得た時がありました

そうです、それですね。カテゴリーはその前のシーズンに見てた子供達と一緒に上がりアレビン(U-12)になりました。そして、その年に黒沼さん(現在はレアッシ福岡FCに在籍)からも誘われてサンジョアンデスピで第二監督をやらせてもらいましたので、二足のわらじを履かせてもらいました。いえ、三足ですね。選手としてもプレーしていましたので。

黒沼さんとはどういうところで繋がりがあったのでしょうか

黒沼氏の元では第二監督を勤め、リーグ優勝も経験した

セイフットです。

日本人の集まりですね

初めて会った時は黒沼さんがサンアンドレウに在籍していて、その次のシーズンがアルメダ、そしてその次のシーズンがサンジョアンデスピで、その時に「一緒にやらないか」というお話をいただきました。

日本人監督でも優勝できる 異なるスタイルから学んだこと

それ面白いですね。スペイン人の監督の元でやるというのと、加えて日本人の監督のもとで行うことを同時にやるということですから

全然違いましたね。僕も日本人なので、どちらかというと黒沼さんがやっていたところの方が参考になりました。選手のへの伝え方や練習の組み方はスペイン語も含めてそちらの方が参考になりました。それは単純にスペインサッカーの中で戦うというのと、「日本人としてスペインの子供たちにどうサッカーを教えるか」というところで参考になりました。

例えば覚えているエピソードなどはありますか

スペイン人の監督の方は以前から同じ選手達を見ているというのもあって、すでに僕が入った時から選手との信頼関係は出来上がっていました。なので、僕から見てもこの練習はあまり良くないなと思うことをやっていても、監督が「やれ」と言ったらやるという感じでした。モリンズデレイは田舎にあるクラブなんですが、その一体感というものは感じましたね。これはこの人にしかできないと思っていました。

しかし、私たち日本人は外からやってきたわけで、そのような信頼関係をゼロから構築しなければなりません。そのような中で黒沼さんがやっていたのは、成功体験を与える、練習をうまく機能させるということを重視していたように思います。そういう意味では、どうやって信頼を得ていくかということは勉強になりました。特に試合に準備した現象が出るということが起こると選手からの信頼は得られます。これは自分もやらなければいけないなと思っていました。

「試合に現象が出るように」ということですが、どのような工夫をしていたのでしょうか

ポジションを付けたりとかゲームの状況を作ったりとかです。モリンズデレイの監督はフィジカルをやったり、ドリル練習をやったりシンプルな練習を行って試合では好きにやらせるというやり方でしたが、それはシーズンが始まった時から監督のプレイモデルが浸透していたからできたんです。「なぜこんな練習しかしてないのに試合で出来るんだろう」と思っていましたが、それは前から積み重ねてきたものがあってのことなのです。対して黒沼さんの場合は、やりたいことをゼロから選手に落とし込まなければならないので、それを見れたのは大きいです。日本人がゼロから作りあげる仕事を見れたのは非常に参考になりました。

基本的な練習の進め方はどのような形でやっていましたか

ウォーミングアップは僕が担当していました。それは黒沼さんが僕のスペイン語の練習だったりとか、練習の経験を積ませるために機会を与えてもらっていました。その後に、練習1・2を黒沼さんが指揮をとる、という流れです。始めは、週にに2回しか練習がなかったので走ってからフィニッシュが入るような1対1、2対2の中にスプリントが入るような練習が多かったですね。その後に、より人数をかけてトレーニングをして最後にゲームをするという形でした。そして状況によってはセットプレイが入ってきたりという日もありました。その流れの中で、二つ目の練習の時に試合に向けたメインの練習をやるという感じです。今週はこうだから、プレイモデルはこうだから、ということを落とし込んで行っていました。

優勝しましたよね

そうなんです。その年は黒沼さんのチームとモリンズデレイの2つのチームで優勝したんです。二人の優勝監督の背中を見ながらシーズンを過ごせたんです。

もちろんスタイルは異なったはずです。その異なるスタイルでも結果が出るということを実際に見たわけですが、それらの比較から学んだことは?

そうですね、やり方も異なる中で何が正解だ、というものは無いだなと思いました。両方とも優勝しているからガンガンドリル練習をするのも正解でしたし、ちゃんと戦術をやるのも正解でした。でも共通して言えたのは、 チームマネジメントの大切さですね。選手が監督を信頼しているいうところはすごく共通していました。

それは2チームとも共通していた事項だと思います。最後に今シーズン自分が監督をやったのですが、そこが一番難しいと感じたところです。チームマネジメントの重要性を学んだと言えます。

それは、成功の例を見ていても見てるのと実際にやってみるのとでは全く違うということ

そうですね。知識はあるし、見てる経験もあるのですが、実際に現場でやってみて自分が見たときと違う現象が起きるわけです。子供達も違えばチームのプレースタイルも違うし、そこに対応する能力というのがまだまだ足りなかったなと反省しています

今シーズンは引き継ぎモリンズデレイに在籍しいよいよ監督としてデビューしたわけですね

次回へ続く

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