スペインから日本へ帰国し活躍している指導者に聞くインタビュー企画
前回に引き続き、吉住貴士さんのインタビュー第2回をお届けします。
第1回はこちら 【吉住貴士】ボール扱いが下手なのにサッカーがうまいスペイン人
今回は今シーズン初めて勤めた監督という立場からの学びについて語ってもらいました。列を作って待つことさえできないような選手たち相手という困難な状況で、どうチームをまとめようとしたのか。
また、恩師である小嶺忠敏氏の指導方法はスペインの指導法と似ていることをスペインに来て実感したとも語ります。
様々な困難から監督行の深さを学んだ吉住貴士氏の言葉です。
試行錯誤の日々 列で待つことさえできない選手たちをどうまとめるか
今年は監督としてシーズンでしたね。どうでしたか?シーズン戦ってみて
同じクラブでずっと2年間コーチだったんですけど、監督とコーチとでは違うということで私にいいチームは任せられないだろうなと予想はしていました。経験値が少ないこともあり、まずは一番下のカテゴリのチームをまかせてくれました。9歳以下の選手だったんですけど、正直なところレベルはそこまで高くなく、まだサッカーを知らない子たちという感じでした。
基礎的な運動能力も低くて、昨シーズンは一度も勝ったことがないチームということでどうなるだろうかと不安はありました。シーズン前にモリンズレイの監督や黒沼さんのやり方だったりを参考にしながら準備したのですが、プレシーズンから全てのプランが崩れました。1番初めに自分が組んだ練習が全く機能しなかったんです。「これはまずい!」と思い自分の考えを変えました。
スペインで監督をするにあたってのよくあるエピソードですが、日本ではそのようなことは無かったですか
日本ではなかったですね。日本で初めに指導したカテゴリは高校生だったのですが、そのようなことは無かったです。練習が良かったかどうかは別として、選手は私の言うことを聞いてやってくれました。
年代による違いもあるかもしれませんが、日本とスペインでは反応が違いますよね。その時どのような反省をしました?
まずその時のミスでは列を作ることが必要とされる練習をやってしまったんです。僕のプレーモデルにおいて重要度の高い要素に「一対一に負けない」というものがあるのですが、はじめの練習で黒沼さんが実施していたようなスプリントを入れた後の一対一をやったんです。そこでは、待っている選手は列を作って待っていなければいけなかったのですが。
列を作らせたら本当にダメで・・・
待っている間に友達と喋ったり、話を聞いていなかったり、友達とボールを蹴ったりする様な子たちだったんです。好き勝手やって列にも並ばないような子たちでした。そのような子たちに列を作らせたらだめだということにその時に気づきました。
スペイン人に列を作らせてはいけない(笑)
そうなんです。
でもモリンズレイの優勝したチームの所ではその様な練習ばっかりだったんです。
なんでできないんだろう?ってなりませんか
はい。「これで優勝したじゃん。この練習やって優勝してたじゃん!」ってなるんですよ。でも全然駄目で・・・それでその時のコーディネーターからも言われました。コーディネーターに相談したんです。「このチームは全然規律がない」といったら怒られました。
「それはお前がやっている練習がダメなんだ。列を作らしてはいけない。列はあの子達には向いていない。常に全員参加の形で、鬼ごっこでもいいから全員参加のトレーニングをしなさい」と言われました。そして、そこから変えました。自分なりのメソッドを変えて常に全員参加の形にしました。あとは細かいところで2vs2などをやりたいときは、第二監督を使って2グループに分けるとか、その様な工夫をしてやってました。
そのような毎日の工夫の連続だったと思いますが、1シーズンは長く感じたのではないですか。
はい。とても長かったです。
今思えば恩師の小嶺先生の指導スタイルはスペインに近い
その中で第二監督と監督の1番の違いを言葉にするとしたら?
いちばんの違いは「準備の量」だと思いますね
準備というと
練習の準備もそうですし試合の準備もそうですし、プランニングを立てなければなりませんので、その量と重みが全然違うと感じています。もちろん黒沼さんと一緒にやっていた時も
監督のように自分の責任感を持ってやっていましたし、自己の責任感はそこまで変わらないと思いますが、監督をやって思ったことが準備の量が全く違うということです。気をつかうところも全く違いますし、事前の準備がすごく大変だと感じています。
私が監督をやっていた時は、うまくいかなかったケースの予測はとても大事だと思っていました。列に並ばないとかそういうマネージメントです。スペイン人はこちらの予想を超えてきます
それって、チームマネジメントの部類に入るんですかね。 「こうしたらこういう現象起きそうだな、こういうローテーションにしたらこのような間違いが起きるかな」とかそういうのはメソッドなんですかね、マネージメントなんでしょうかね?
そのような区分けは難しいですが、準備をすると言うことは監督にとってはとても重要なんじゃないでしょうか。監督だと責任が伴うのでトレーニングの成否の言い訳は聞きませんので予測の重みが異なります。ですから第二監督よりも慎重にいろんなことを先読みしますよね。アシスタントコーチはいたんですか
はい。第二監督がいて、さらにアシスタントコーチがいましたので3人体制でした。そのコーチたちの管理も選手と同じぐらい大変でした。二人ともスペイン人だったのですが、 モリンズレイで高校生でプレイしている選手、もう一人は選手の父親だったんです。
私としては、シーズン始まる前にクラブに「父親はやめてくれ」というのは伝えていたんです。保護者がグランドに入って指導をするというのは個人的に嫌だったんですが、僕が車を持っていなく移動などでそういうのを助けてくれるから一応置いておくとクラブに言われました。「この人はそこまで会話してこないから大丈夫だよと言っていたんですがその人のマネジメントが大変でしたね。
やっぱり子供達にとってはチームメイトの父親なんです。僕たち大人はそこの部分の区別はできるんですが、子供達はそれはできません。息子は息子でちょっと僕が厳しいことを言うとお父さんのところに泣きつきに行ったりとかありましたからね。
今シーズンの改善点としてはこの二人のアシスタントコーチの信頼を完全に取ることができなかったという点は反省しています。スペイン語ができないということも原因であったかもしれませんが、ミーティングをしている時にその父親に介入されてしまったり、そういう経験もありました。「僕が喋る時はちゃんと最後まで待ってくれ」と言うんですが、やっぱりどうしても彼らは出てきちゃいますね。そこのマネージメントは改善ありの反省点でした。だからもう少しそこに強く言えば子供達にとっても良かったのではないかと今は思います。
監督がチーム、スタッフをまとめたりとかするマネジメント方法の中では一番の師匠では小峰先生ですよね。小嶺先生の仕事を振り返るとそういう意味で凄みは感じますか
こちらへ来て改めて感じました。小嶺先生の指導法の凄さというか。こちらに近いんですよね。スペインに近いやり方しています。すごい明確ですし、選手を乗せるのもすごく上手です 。まるとバツがはっきりしているというか、選手がピッチの中で「これはやってはいけない、これはやるべきだ」ということがものすごくはっきりしていて動きやすいので、そこはスペインに近いのかなと思います。
戦術の決め方のや落とし込み方はスペインに似てるんですね
こちらへ来る前は全く違うんだろうなというイメージでした。割と自由度が高いと思っていたのですが、こちらへ来てみて思ったことは監督の決めごとがきっちりしている点です。その中の決まり事がある中に自由があるという感じです。そういう意味では先生がとっていた方法と似ています。小嶺先生も決まり事がすごく多いですが、その中で「攻撃のところは好きにやれ」ということもあります。
「ここは好きにやれ、ただこれとこれはやるな」と言うのがはっきりしています。ただ、それをしなかった時の怒り方は尋常ではありません。そして褒める時はものすごく上手に褒めます。それはこちらの指導方法は近いと思います。
次回に続く