世界トップレベルのサッカー指導者になる2つの選択肢とは?

アシスタントコーチではなく第二監督 PST4期生青島さん 後編 

前回に引き続き、静岡県出身のアカデミー4期生の青島宗之さんのインタビューの後半をお届けします。

前編『日本ではサッカーを「勉強していたつもり」だった』はこちら

後編は、コーチングスクールの話題に始まり、指導現場のこと、スペイン独特の「第二監督」としての仕事の面白さや難しさ、語学面での苦しみとその解決策などについて語ってもらいました。

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スペイン語での伝達の難しさ

授業の内容はだいぶ頭に入ってきていますか?

 

青:入っている部分もありテストで合格するのが精一杯だったり、消化するのが精一杯というなんとも言えないところです(苦笑)

でもかなりサッカー感は変わってきたのではないですか?ブラッシュアップされたところは?

青:そうですね。自分の中の変化はまだ実感はできませんが・・・

では指導面は変わったと感じることは?

青:指導では、ベンハミン(小学3、4年生)を教えているということもありますがコンシグナ(キーファクター)の言葉の選択に気を使うようになりました。「この言葉であの子たちはわかるのだろうか?」と考えたりするようになりました。例えばマークをする時には「斜めに」とか「内側から」とかを、この表現で伝わるかな、とかをすごくシンプルに伝えないといけないと注意しています。言葉の壁がありますから、そうならざるを得ないのですが、それはとても変化した部分ですね。

言葉の伝え方で失敗した経験もあるのですね。

青:メニューの説明ではいつも課題が出ますね。説明を違う動きをしている時にはそれが見事に分かります。

私もあります。自分の中の語彙で一生懸命に伝達しているのだけれど、それに対する選手のリアクションが全く違うということ(笑)

青:自分のスペイン語の問題なのかなぁとか思いますね(笑)

さらにその修正もできないという・・・

青:そして時間がどんどん過ぎて行くんですよね(笑)

分かります。そういう時はどうしているんですか?次の練習までに単語調べたり、どうやったら伝わるんだろうって考えると思いますが、それが練習のキーファクターだったら余計にそうではないかと。

 

青:もう一回コンシグナ(キーファクター)を考えますね。表現の仕方を変えないといけないのか?とか、違う言葉でやってみようとかです。

 

では、まずは自分で探してということですね。

 

青:あとは周りの人に聞くこともします。周りの日本人の人に聞いて「これっていつもどういう風に言ってる?」って聞いています。日本人の先輩指導者もいますしね。で「あ、そういう風にスペイン語使うんだ」となります。

それに関しては人に聞くのが一番早いかもしれませんね。

 

青:スペイン人に聞くこともします。「この練習をしたいのだけれど、コンシグナってどういうものがある?」と。

 

確かに人に聞いて解決できることはたくさんありますね。

 

青:ゴンサロとかに聞いてたんですか?

いや、あまり聞いていなかったです。どちらかというと自分で考えて消化するタイプだったのと、その説明さえもままならないスペイン語レベルだったのとで。でも選手にサッカーを教えるにあたりなんとかしなければいけなかったので、私はどちらかというと付いていた監督の言っていることを聞いて盗んでいく方法を取っていましたね。

青:それ分かります。僕もカデテやアレビンのカテゴリの監督の言っていることを基本的に使っています。とはいえ「Cerrar(閉じろ)」と言ってもベンハミンの子にはわからないです。

それって例えばサイドバックが中に絞るようなアクションですよね?ではどうしているんですか?

青:「中へ行け」って言っています。

そうやって噛み砕いて言わないと伝わらないんですね。

青:で、その後に「今のが『絞る』という意味なんだよ」と説明します。それで反復をして行くと選手たちが「絞る」って中に行くことなんだな、と。Tocar(スペイン語で触る、だがサッカーではパスをする)みたいな感じでそういう風になって行くんだろうなと。

スペイン人はミーティング長いじゃないですか。やたら説明しますよね。というかやたらに長い(笑)絞るというアクションを教えるにしても作戦板を持ってきてサイドバックに「絞れ!」ってこれだぞ、ってビジュアルで見せますが、言葉は、とある単語がありそれが何を定義しているのかということで成り立っています。そしてその定義をいかにして見せるかというのが大事になります。その方法の一つが「視覚で見せる」というのは一つ大きなポイントだと私は考えています。だからこそ、日本人はスペイン人にサッカーを教える時には作戦板は必須ですね。

青:僕もよく使ってます。

いかにして「見せる」かが大事ですからね。私たち外国人は言葉でハンデがありますから様々な方法で見せることは重要ですね。デモンストレーション、作戦板は大事です。そういう意味で外国人の指導者として気を使っていることはありますか?

 

青:僕は身体的接触をなるべくするようにしています。僕が付いている監督たちがそうやって指導しているのもあるのかもしれませんが、こちらの人たちは挨拶の時に握手しますしね。自分の今までの接し方とは違うこともありますが、スペインサッカーに順応するように身体接触をするようにしています。あとはデモンストレーションをゆっくりやるようになりました。ゆっくり丁寧に、「ここはこうだよ、ここがこうなったらこうするよ、でここまできたらシュートしておしまいね」というように時間を取るようになりました。

その方法に行き着いたのは、いろいろとやってきて行き着いた方法なのですか?

青:最初はボードに書いて行っていたのですが、それよりも彼らを動かしながら説明した方が理解していると思ったので、書くよりも実際にやった方がいいと思いました。なので、トレーニングの時は作戦板を持って行くことはしません。選手が実際にやってみての方が理解は早いんですよね。あとは先ほども話になりましたが似たようなオーガナイズを作るということですね。例えば、コーンを回ってから守備に入って数的不利な状況でプレーするなどです。

なるほど。いかにして練習の設定をシンプルにするか、ということですね。

青:はい。選手が新しいことをやると選手が「これってどうやってプレーしたらいいんだ」となるのを抑えることによってトレーニングの中身が伝わりやすくなるようにしています。「こういうタイプのトレーニングをこの監督はするんだな」というのをはじめのうちに作っていき、今はそれを続けているという流れですね。ただ、悪く言うと変化がないと言う風にも捉えることはできると思います。

第二監督という仕事

スペインでも「スペイン人だからこうやってトレーニングする」と言うのはなくていろんな方法がありますね。青島さんは第二監督やアシスタントコーチを3人の監督のもとで務めています。みなそれぞれ違いますか?

青:練習の作り方が違います。プレーモデルを強く出すトレーニングをする人もいれば、一般的なトレーニングをする人もいます。その一般的なトレーニングをする監督は月・水・金のうち金曜日だけはチームのプレーモデルのトレーニングを行います。あと、トレーニングテーマがその一日は一貫しています。マルティネン(青島さんが所属するクラブ)の場合はそのようなメソッドで行なっています。また、違うカテゴリのカデテ(U16)になると人数が多くなります。

(青島さんが所属するマルティネンの指導者と)

11人制サッカーなりますからね。では少し話題を変えましょう。第二監督という存在は日本だとなかなか耳にしません。日本だと「アシスタントコーチ」という役職が一般的です。このような形でスペイン独特の役職がありますが、第二監督を担当するにあたって心がけていることはありますか?まず青島さんにとって、第二監督という役割はどのようなものだと解釈していますか?

青:それは監督が求めるものによって変化するとは思いますが、 結局は第二監督の仕事は監督のサポートだと思っています。監督が見ていないところを見たりとか、違う目で見なければいけないなと心がけています。 監督と同じことを見ていると思った時は私は何も言わないようにしています。たまに変なことは行ったりしますけれどね(笑)違う視点を持ってやるようにしないと、そこにいる意味がないんです。なぜなら「自分が思ってることをお前も思ってるのか」ってなったらいる意味がないですからね。

練習の時は?

青:監督は主観で見てることが多いので、メニューを見てもっとこうしたら良くなるんじゃないかなと思ったことを言ったりとか、選手個人に焦点を当ててアドバイスをするようにしています。メニューが機能しているのかしていないのか、こういう風にしたらいいのではないかを伝えるようにしています。

第一監督はそれを受け入れてくれますか?

青:はい。半分ぐらいは受け入れてくれます。 たまに僕が全部のメニューを作ることもあるんです。例えば「サイドチェンジのトレーニングをしたいんだけど、ムネ何かメニュー作ってくれないか」と練習始める直前に言ってきたりたりするんです(笑)

「サイドチェンジからシュートまで入るメニューを考えておいてね」、て(笑)

それはまるで宿題を与えられるような感じですね。

青:だからそういう意味ではすぐにパッと練習メニューを考えなければいけないということは鍛えられていますよ。それも自分にとっては良い経験だと思っています。

それも第二監督の役割の一つなのかもしれませんね。

青:でも僕は監督に「それはおかしい」と言っています。それは監督が考えてくるものであり僕に投げることでないと思うんです。ちゃんと準備してこなければいけないことです。

ということはノープランで来るんですね(笑)その辺もだいぶ読めてきたんじゃないですか?

青:はい、読めてきます。(笑)

私の場合は、そこも含めて第2監督の仕事の一つかなと割り切ってますけどね。一緒にいる時間が長いとわかったりすることもあります。もちろん準備してこなければいけないことなんですが、第一監督が予想できないことを処理するのも自分の仕事だと認識しています。それは試合中であれば采配に関わることでもありますし、 練習中であれば監督が見えてないところを自分が見るのもそうですし、練習の流れで監督が準備してこないということを予測するのもある意味仕事の一つかなと思います。 もちろん練習前のミーティングもやりますが急に変わることもあります。例えばプランニングになかったことが急に必要になることもあります。

私のチームであったのは、事前のプランニングされたトレーニングメニューインテンシティが低いので最後にコンビネーションからのシュートで強度が増すようなメニューを1個入れようとか。フレキシブルに対応することも必要とされます。 そういうのも含めて第二監督はフレキシブルに対応できる能力がなければ務まらない仕事だと思っています。そのようなフレキシブルさがある人の方が第二監督としては優秀なのかもしれません。引き出しがたくさんあればそれは成り立つんです。そういう意味で監督のヘルプができることが重要だと思っています。

青:監督が何をこちらに求めているかというのも関わってくると思います。全部を抱え込むとするスペイン人監督もいるんですよね。サッカーに関することは俺が全てやるから、という感じで。 なので自分が監督をやるときには第二監督に任せることを明確にしようと思います。例えばセットプレーやウォーミングアップは第二監督に任せるようにして、役割分担をすることが大事なんだと思いますね。

様々な指導スタイルがどのカテゴリでもありますし、スペインの育成年代でも人の数だけマネージメントのスタイルが存在し、これが正しいというものはないのだと思います。でも大事なのは機能していることで結果が出ることですが、権限を持っているのは監督になります。

だから、監督によっては全て自分でやる人もいますし任せるタイプの人もいますが、そのスタイルによってクラブが自分を選んでくれるかどうかということにも関わってきます。その中で「自分らしさ」 を監督は持っていなければいけないと思います。自分はこういうやり方でやる、自分はこういうサッカーをやりたい、こういうサッカーをやらせてくれたら他の人よりも秀でているよ、というものをいかに持てるかだと思います。

そしてそれこそが監督として評価されるべきポイントだと思います。 そしてスペインでは色んなタイプの監督を見ることができますから、 こういうやり方をしたらこういうことが起こる、また問題が起こるということを見るには良い環境です。私の監督も彼のやり方がありますし、私が以前についていた監督も別のスタイルがあります。サッカーの中身はそこまで緻密とはありませんでしたがチームマネジメントに関してはとても上手でした。それによってサポートの仕方も変わってきますし、自分の役割も変わります。

なので色んな人の下について勉強するのは後々自分が監督になった時にとても役立ちますし、私が良い経験だと思っているのは以前監督をやったという経験です。なぜなら、 監督の気持ちが分かるので「今監督はこういうところが見えていない」というのが分かるのでここを見よう、ということを知っているのは大きな財産です。

私は、先ほど青島さんが言っていたように監督が見えていないところ、例えばチームが攻撃をしている時はディフェンスラインのカウンターに備える警戒ができているか見ようとします。また、監督が今日は仕事で疲れてきているなと感じた時は、自分が意図的に声を出して選手に対して介入して行く頻度を上げたりとかを、練習前に顔を合わせた時に感じ取ってチームにどのように絡んで行くか決めたりもします。だから、第二監督は実は本当に難しい仕事なんですね。

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色々な監督のもとについて、多様なスタイルのもとで勉強している青島さん。この経験は、現在担当している小学生のチームの監督としての仕事にも大きく役立つでしょう。スペインでは監督と第二監督がタッグを組んで仕事をすることが一般的でそれぞれに役割があり、お互いに支えあってスタッフを構成しています。

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