これまでに続いてPSTアカデミー4期生の松村さんのインタビュー企画を今回もお届けします。
第1回:戦術をもっと伸ばせた高校時代
第4回は松村さんが所属するクラブであるFontsanta(フォンサンタ)について語ってもらいました。フォンサンタはスペインでは珍しく、男子よりも女子サッカーに力を入れているクラブです。育成年代のチームにも若手の女子指導者が携わっており、松村さんがコーチとして指導しているインファンティル(13歳)のチームの監督も20歳という若さで4年のキャリアを持っていて驚かされたと言います。
バルサから来たコーディネーターがクラブ改革
では所属しているクラブについて教えて下さい。Fontsanta(フォンサンタ)の女子のトップチームはどこのカテゴリーでプレーしていますか?
松村:Preferente(プレフェレンテ)というカテゴリーです。実質国内の3部リーグに相当します。
クラブが創設されたのはいつですか?
松村:1977年ですね。創設されて40年目になります。バルセロナだと古くもなく新しくもないといった感じです。もともとは男子だけのチームでしたが女子のチームも創設されました。
バルサから来た選手がコーディネーターとしてこのクラブで改革を行ったんですよね?
松村:そうですね、その方が改革に乗り出して、今では女子のチームに力を入れています。男子のチームも少しずつ強くなってきていて、昨シーズンは多くのカテゴリーが優勝しました。
クラブとしたら女子チームの方がメインで力を入れているといった感じですか?
松村:そういうクラブがとても珍しいので、このクラブに加入しました。男子のチームの指導者たちが「どうせ男子の方には力を入れないんだ」と愚痴をこぼしていたのが面白かったです(笑)
なんで女子の方に力を入れているんだろうね(笑)女子チームのCoordinador(コーディネーター)が権限を持っているのかな?
松村:そうですね。女子チームのCoordinador(コーディネーター)がクラブの中でイニシアティブを握っています。
なるほど。先ほどの話のでは女子のトップチームは3部に所属しているって聞いたけど、ユニフォームとか用具一式を洗濯してもらえるってなかなか無いですよね。
松村:これも珍しいと思います。来シーズンからはトップチームにAチーム、Bチームと構成していたのを、Cチームまで拡大する計画があります。また、低年齢のカテゴリーも増やし、プレベンハミン(7歳、8歳)のカテゴリーも作られます。
クラブ自体が資金力を持っているのでしょうか?
松村:そんなに無いと思います。私は指導者もこのクラブでしていますが、受け取っている給料も多く無いので、クラブの資金力がどれくらいかは想像はつきません。
では、女子のトップチームの選手は給料をもらっていますか?でなければ、どこに資金を投じているのでしょう?
松村:選手は給料をもらわずにプレーしています。ただ、選手の獲得にクラブのお金が使われているのかもしれません。
それでもチーム数を増やしているということは環境としてはすごくいいですね。クラブ全体での選手数は何人くらい所属しているかわかりますか?
松村:何人くらいでしょう…男子も入れたら300人くらいまでいるかもしれません。
女子って、例えば5学年が一緒にプレーしていませんか?フベニール(17歳、18歳、19歳)の世代なんかは15歳、16歳の子もプレーしているだろうからフィジカルのギャップもありますよね?
松村:そうですね。ただ、上のカテゴリーに上がってくる子というのは背も高くてフィジカルも備わっているのでそこは大丈夫ですね。例えばカデーテ(15歳、16歳)の学年にはインファンティル(13歳、14歳)の子もプレーしています。学年はそれぞれ掛け合わせになりますね。能力のある子は1つ上のカテゴリーでプレーすることが当たり前ですね。エスパニョールはカデーテのカテゴリーはありません。インファンティルのカテゴリーを終えるとそのままフベニールのBチームやCチームに引き上げられます。
その制度についてはどう思いますか。
松村:チャンスが増えるという点ではいいと思います。男子の場合は1つずつカテゴリーの階段を登りますが、その女子の制度になると能力のある子はカテゴリーをさらに上げることができます。また、女子の場合はカデーテのカテゴリーまで7人制で試合をします。ですから見た目がかなり小さいコートで試合をしているように感じます。カデーテになると長い距離のボールを蹴れる子がいるので、1つの武器になります。
そうなるとその良さを利用しようと蹴り合いのサッカーになりませんか?それともしっかり繋いでくるチームもありますか?
松村:繋いでくるチームもいます。ただやはりコートが小さいので、カデーテのカテゴリーの選手たちには11人制でやった方がいいと思います。そこが課題なのではないでしょうか。
インファンティルまでは7人制でやった方がいいですよね…
松村:そうですね。インファンティルのカテゴリーが1番体格差ではっきりするカテゴリーです。本当に小さい子から、大人のように大きい子までいます。
Fontsantaはそのエリアの中では力のあるクラブですか?
松村:全カテゴリーを揃えているのはもちろん、各カテゴリーのチーム数も豊富です。力のあるチームであると言えます。そしてこのクラブは、しっかり下のカテゴリーから選手を育てたいという意識を感じ取れます。クラブの上層部は目先のタイトルを獲得するというよりは、長い目で選手を育成することが念頭にあるようです。
ではクラブとしてのメソッドも確立していますか?
松村:いや、それはないですね。各監督に任されています。その部分をもう少し突き詰めていくといいかなと思います。
20歳で4年の指導キャリアを持つ女性指導者
松村さんは今シーズン、どのカテゴリーを担当していましたか?
松村:今シーズンはインファンティルBの第2監督をしていました。また、私の第1監督は20歳くらいなのですが、すでに監督4年目でした。若い子でしたが、経験のある方でした。最初は自分が外国人ということもあり遠慮していたのですが、せっかく現場に立っているのに勿体無いと思い、徐々に慣れていくと意見を交わしていくようになりました。
「これについてどう思う?」や「練習でもっとこういう風にしたらいいのでは?」といった質問を投げかけるようになって、意見交換を頻繁に行うようになりました。第2監督として自分には何ができるのか、いつも違う視点でサッカーを見るようにして働き、そこからはお互いに信頼が生まれました。
そこから信頼関係ができて、しっかり意見を交換できるようになれたのですね。では松村さんにとって、ここは自分の得意な部分だなとか、こういうところが見えてきたななどはありますか
松村:正直な話、自分の性格などを含めて分析すると第2監督が向いているなと感じました。ただ、来シーズンからは自分の成長のために第1監督をします。今シーズンは第1監督のスペイン人が全体を見て、私が細かいところを見るようにして役割分担を行い戦ってきました。また、選手個人の分析もできるようになってきました。
その働きを通して、自信はかなりついてきましたか?
松村:いや、まだまだだと感じています。それでも、その第1監督といい人間関係を作れたのは私の財産になりました。
練習での役割は
松村:最初の方は第1監督が練習メニューを作ってきましたが、時間が進むにつれて練習の1つのセッションを任せてもらえるようになりました。スペイン語という言葉の問題はありましたが、わからないことがあれば第1監督がサポートしてくれたことがありました。
自分が練習を担当して、難しいと感じたことは?
松村:もちろん言葉の関係で、練習のルールを伝えるのが難しかったです。また自分の想像していた練習と、実際に行われた練習にギャップがありました。ただ、そこで気づいた改善点もありました。例えば、伝え方や表現の工夫をし、どういった順番で練習メニューを伝えたら選手が理解するかなども学習しました。
スペイン人の指導の仕方や抑えるべきツボもありますよね。でもまずは失敗から学ぶものです
松村:そうですね…選手に練習メニューが全然伝わってない場面もありました。しかし、慣れるということも必要ですし、段階を踏んで説明することが大事だと気づきました。例えば、最初に練習で使うコートの大きさを説明したり、次にルールやタッチ制限を伝えたりといった順番ですね。一気に全部伝えようとすると伝わらないですね。女子は男子よりサッカーIQが低いような気がするので、練習メニューを伝えるのが本当に大変でした。
いや、男子も男子で伝わらないことがあります。私たち日本人がとても複雑な練習をやろうとすると、伝わらなくて練習がうまくいかないというミスをしてしまうことがあります。
松村:そうですね。例えば、1つの練習でルールを多くしてしまうと理解してくれないですね。なので、よりわかりやすい、ルールの少ない練習をするように心がけました。また、今日の練習はここまで出来たから、次にトライしてみようと持ち越すことも必要です。どこかで練習の落とし所を見つけることが大事であると学びました。
それで何回も失敗を繰り返して成長するんですね…
松村:そうですね。練習をやってみても、何が大事かをはっきりしていなかったことがあると、選手に伝わらないですね。
そういった経験を経て、大きく変わりましたか?また、スペイン人の練習での反応はどうでしたか?外国人にサッカーを教えてもらう選手たちはどんな感じになるのかな…
松村:まず、私の第1監督がうまく私のことをマネージメントしてくれました。シーズンの最初に選手達に向かって、「チームを指揮するのは私とサトコだから」と言ってくれたので、私と第1監督を常に同じ立場においてくれました。例えば、試合のハーフタイムにロッカールームで、「サトコがこういうことに気づいたから後半からは改善していこう」と、私の名前を常に出してサポートしてくれました。私の第1監督はこういったチームマネジメントがかなり上手いなと感じましたし、そこは見習うところでした
20歳でそのチームマネジメントはすごいですね…
松村:本当に勉強になりました。第1監督が「サトコがこう言っていたよ」と選手達に言ってくれることによって、選手達も「あっ、サトコはこういうことに気づいているのか」とわかってくれるので、そこで私と選手達に信頼関係が生まれました。
そうですか…それだと選手目線からして、「サトコわかってるな」ってなるのは嬉しいですね。
松村:繰り返しになりますが、最初は日本人ということで見られていましたが、徐々に信頼関係ができました。練習でも、最後の方は私の練習を選手達が必死に理解してくれるということがありました。
まあ、ポイントや要領をつかむと、たとえ相手が外国人でもちゃんと信頼を得ることができますよね…
松村:私は性格上、ノリや雰囲気を盛り上げての指導をするタイプではないので…それができる指導者の方が羨ましいです(笑)
それは人それぞれですよ。何かを伝えようっていう情熱があれば、ちゃんと選手も聞きますよね。
松村:私は選手達にも助けられているので…選手達は私が説明している時に本当によく聞いてくれました。
男子じゃありえないです、そんなこと(笑)クラブとしても、教育上のアプローチもちゃんとしていますか?
松村:そうですね。指導者である前に、教育者であるべきだということも学びました。私の第1監督も学校の先生みたいな面がありました。スペインでは珍しいと思いますが、学校のテストの点数が悪いと、試合の出場時間を制限することもありました。また、その教科を落とすと、再テストで受かるまで試合に出さないということまでありました。
それで問題にならないのですか?学校とサッカーは関係ないよって言い出す人もいませんか?
松村:その件で文句を言ってくる保護者もいました。しかし、その件をCoordinador(コーディネーター)に相談しすると、現場のことは私たちに任せてくれたので、そこは私たちの要求を押し通しました。
それはチームマネジメントにプラスに働きましたか?
松村:それに関して唯一欠点があったのは、そのテストのことに関してのペナルティをプレシーズンに伝えてなかったことですね。途中から作った決まり事でしたので、不満が出たのも事実です。しかし、そういった不満も第1監督が上手くマネージメントしたので、そこまで大きな問題にはならなかったです。
今までの話を聞いていると、Fontsanta(フォンサンタ)は優秀な指導者が輩出されてくるチームですね。とても注目のクラブですね。
そうですね。ありがとうございます。
次回へ続く